”旅”と”仕事”の間に見つけたもの。「ロコハン in 長野須坂 」レポート

2019.08.25

「ロコハン in 長野須坂 」レポート

旅は楽しいけど、ただ楽しいだけじゃ物足りない!普段のシゴトで身につけた専門領域を、どこかもっと可能性のあるところで発揮してみたい!そんな都市部の専門人材と、地方都市の行政や中小企業の経営者をつなぐことで、地方に新しいアイデアを生み出せるのではないか――。そんな思いからNPO法人plususが始めた旅プロジェクト「ロコハン(ローカルクリエイティブ・ハンティング」。

第1回の愛媛県松山市での開催に続き、今回は、2017年3月に長野県須坂(すざか)市とのコラボレーションで開催したロコハンの様子をご紹介します。

“特別な旅”で地域と都市の専門人材をつなぐ「ロコハン」

ロケハンならぬ「ロコハン」は、普通の旅とはちょっと違います。まず、地元の方にしか企画できない“特別なツアー”をクリエイターや企画、マーケティングなどに関わる「クリエイティブ・クラス」の人たちが体験。旅を楽しむだけではなく、旅を通して地元の魅力を参加者ならではの視点で発掘。最後に“旅のお礼”として、参加者が考えたローカルをもっと元気にするためのアイデアを地元の商店街や行政の方にプレゼンテーション。プレゼンしたアイデアは、旅の後に地元の方々と形にすることを目指します。

ロコハンを運営するNPO法人plusus(プラサス)は、10年近く地方での活動を続ける中で、地方には魅力的な中小企業や資産がたくさんあるにも関わらず、その価値を魅力的に育てる人材や機会が少ないことや、そのための原動力となる熱量を持った“人と人のつながり”が少ないことに気付きました。

また、都市部にいる専門人材の中にも、普段の仕事の中で身につけた専門領域を他の場所で活かしたいと思っていたり、地方への移住を今までとは違う形で実現できないかと考える人がいることが分かってきました。そこで、地域の課題や地方企業の経営者と都市にいる専門人材をつなげる機会を作り、地域の新しい可能性を発掘するロケハンの旅「ロコハン」を始めました。

“非日常”より“豊かな日常”が魅力の長野県須坂市

今回、ロコハンの舞台となった長野県須坂市は、長野県北部にある人口約5万人の街。明治から昭和初期に製糸業で発展したことを背景に、現在でも立派な蔵が立ち並ぶ「蔵のまち」として知られ、独自の食文化や豊富な農作物などが自慢の街です。

とは言っても須坂市には、他の地域と比較して多くの人を集めるような突出した観光資源があるわけではありません。しかし、そこに暮らす地元の方々が豊かな暮らしを営んでおり、他の地域から訪れた方にとっては、非日常ではなく、普段と少し違う日常を楽しめることが魅力です。海外から来た旅行客は、ゲストハウスに滞在しながら、須坂での生活自体を楽しんだりしているそうです。

そんな須坂で行われた第2回ロコハンに参加したのは、デジタルマーケティング会社のディレクターや広告代理店のプランナー、メーカーの企画職、金融機関でコンサルティングを担当している方に、plususのメンバーを加えた約15名。

ミッションは、須坂の3つの資産を活かしたアイデア開発!

ロコハンの参加者は3チームに分かれ、旅を楽しみながら「須坂の資産を活かした新しいアクションプランを提案せよ!」というミッションが課されました。ここでいう資産とは、「農産物・新規就農者」「長野GaRons」「空きビル・不動産」という須坂に秘められた3つのポテンシャルを指します。
須坂は、一粒数百円もするシャインマスカットやナガノパープルといったブドウが名産。アジアでの需要などもあり“ブドウバブル”が訪れ、他県からの若い方の新規就農者も増えている一方で、中長期的視点での新しい販路の開拓やブランディングに手が回っていないといった課題がありました。
長野GaRons(ガロンズ)は、国内唯一の市民が所有するプロバレーチームです。創部した1974年以降、40年間にわたり須坂市を拠点に活動した富士通グループ長野が前身。2015年からVリーグに参戦しましたが、市民球団ゆえに経営面の課題があります。

農業とバレーチーム、そして不動産。須坂市が持つ3つのポテンシャルを、旅を楽しみながらどう発掘するか。次からは、実際のロコハンの旅をご紹介していきます。

ロコハン in 長野須坂のプラン

地元の人にしか作れない、特別なツアー

ツアー初日。午前8時に東京駅を出発した参加者たちは、まず須坂市の大自然を満喫。須坂市南部にある標高1500mの峰の原高原は、高い確率で天の川が見える「星空の高原」。峰の原高原のペンションのご主人のご案内で、昼間は峰の原高原スキー場でスキーやスノーボードを楽しみます。たっぷり運動をした後は、絶景の露天風呂「七味温泉」で体の疲れを癒しました。夜には、満点の星空!と思ったのですが、あいにくの悪天候で星空はおあずけ。次回訪れるときのお楽しみに!ということで…。

2日目は朝から快晴。長ぐつをはいて、ダイヤモンドダストに輝く峰の原高原の雪山を散策。その後、須坂市内へ。地元の方のご案内で、製糸業を営んでいた豪商の邸宅を見学したり、須坂のぶどうでワインをつくる「楠わいなりー」にお邪魔して製造工程の見学やワインの試飲をさせて頂きました。お昼に須坂名物の十割そばを頂いた後、地元の方と一緒に各チームに分かれて、新規就農者の方やバレーチームのメンバーのお話を聞いたり、空きビルを見学に行ったり、地元の魅力の発掘を進めました。

盛りだくさんの1日でしたが、ハイライトは夜!翌日のプレゼンを前に地元の方々と交流する「前夜祭」を、須坂で有名な「六本木食堂」にて開催。名物は「きのこと虫のディナー」!食べたことのない滋味あふれるお料理の数々はまさにフォトジェニックすぎて、一生忘れられない体験となりました。宿泊は、築130年以上の日本家屋とオーナーの笑顔のおもてなしが魅力のゲストハウス「蔵」にお世話になりました。夜遅くまで白熱してプレゼンのアイデアを練っていたチームも。

そして最終日。チームでアイデアをまとめて、いよいよプレゼンです。須坂市役所や地元の企業、学生の方々など、多くの方がプレゼンを見にきてくださいました。

プレゼン①「農産物・新規就農」チーム

最初にプレゼンを行ったのは、農業チームです。須坂の農業は果樹生産に適した土壌・気候に恵まれていることに加え、先述の“ブドウバブル”や新規就農者の増加などもあり、ぶどうやリンゴを中心に活発化していることが分かりました。しかし、つくり手が増えすぎることや需要の変化による価格の下落や気候変動など、将来的に陥るかもしれないリスクも複数考えられます。そして何より、商習慣や人材不足など、若い就農者の新しい農業に対するモチベーションが形になりづらい環境であることが、農業チームにとって大きなポイントとなりました。

そこで考えたのが、地域商社「須坂NEXT FARMERS GUILD」の設立。将来のリスクを防ぎ農業を中長期的に魅力的な産業にしていくには、これまでのようにJAの横並びの商流だけに頼るのではなく、小規模でも高品質で価格交渉力を持つ「須坂ブランド」を作らなければいけません。つまり、須坂の農家が持つ“個性”を競争力とし、小さくても強いブランドを複数育てるエコシステム作りが必要。そのハブとなる「須坂NEXT
FARMERS GUILD」は、農家をはじめ須坂市や須高ケーブルテレビといった地方自治体や民間企業も出資するパブリックベンチャー。つくり手と売り手・食べ手の間に入り、つくり手の手が回りきらない販売戦略の構築やブランディング、コンシェルジュといった役割を果たします。

こうして小さくても強いブランドを育てるエコシステムを地域の中に作ることで、将来起こりうるリスクに負けない、日本・世界において競争力を持つ須坂フルーツが生まれると、農業チームは考えました。

須坂NEXT FARMERS GUILDの概要

プレゼン②「空きビル・不動産」チーム

空きビル・不動産チームがプレゼンしたのは、須坂駅前の商業ビル、シルキービルを活用した新しいコミュニティ空間「kurukura(クルクラ)」。
須坂の町に若者が集まるカフェやカラオケなどが少ない一方で、塾の数が非常に多いことに着目したチームは、須坂に住む約9,000人の18歳以下の子どもたちの未来への可能性と「教育」の重要性にフォーカスしました。

そこで考えたのが、小さな子どもがいるファミリーや学生、若い社会人など、これからの須坂を担う人たちが集い、自分たちで作り上げる空間。『遊べる、学べる、つながる図書館「Live-rally “kurukura”」』 と名付けられた空間には、世界に向けた須坂の発信や市民と世界のつながり作り、という意味が込められ、1階にはブックカフェスペースと須高ケーブルテレビのオープンスタジオを設置。B1階にはキッズスペースを用意し、読み聞かせやママ友同士の交流の場に。
空間設計のポイントは、“20%の余白を残した空間作り”。市民と一緒にワークショップで作り上げることや、変化し続けることを重視。情報発信と市民の自発的な創造体験を生む起点とし、須坂の未来を担う子どもや若者の“成功体験作り”を目指すことで、「帰ってきたくなる地元」を目指したいとの想いを込めたプレゼンでした。

プレゼン③「長野GaRons」チーム

長野GaRonsチームがプレゼンしたのは、「一生ガロンズ」を合言葉にした「三位一体プロジェクト」の立ち上げです。このプロジェクトは、バレーチームとスポンサー、サポーターがひとつになり、より良いチームにしていくというもの。

関係者に色んなお話を伺う中で、ガロンズは運営資金不足や専任スタッフがゼロといった課題を抱えている一方で、「応援されるチームになりたい!」「⻑野のバレーならガロンズと言われたい!」など、それぞれが内に秘めている熱い想いがあることが分かりました。着目したのは、すべての原動力となる、この“熱い想い”。選手も運営も、視点は違えどガロンズに対しての強い想いは同じ。短い時間でしたが、GaRonsチームのメンバーも、選手や関係者と想いは同じです。そこで、みんなの想いを実現していく際に、同じゴールを目指すためすべての人を主役のプレイヤーにする「三位一体プロジェクト」を考えました。

具体的には、サポーター向けに“チームと一緒に成長できる体験”を作るため、バレー教室やイベントの開催、チームの運営に携われるオフィシャルサポーター制度を導入。スポンサー向けには、SNSやYouTubeを活用した情報発信の強化を通じて、チームの魅力を向上。“日本一平均年齢の高い女子マネージャー集団”といった「健康長寿発信都市」を掲げる須坂ならではのアイデアも出ました。

プロジェクトのゴールは、3年後に選手と市民、関わる人がみんな主役となり、ガロンズらしく、誇りとプライドを持ってトップチームで戦うこと。そのために資金を獲得する仕組み、安定したチーム運営が可能な仕組み、選手がパフォーマンスを発揮できる環境を容易し、将来的にはガロンズが地域の夢になることを目指したいと、プレゼンを締めました。

さいごに

こうして、須坂で行われた3日間のロコハンが終了しました。帰りの新幹線の中。充実の3日間を一緒に過ごした参加者からは、普通の旅では感じられないような満足感と一体感が感じられました。参加者のみなさんからは、「地元の人とつながっているからこその“旅行”感が非常に良かった」という声や、「地元の人の熱い想いや本音が直接聞けて、とても刺激になった」「普段仕事を一緒にしない異業種の人とチームを組めてたくさんの発見があった」などの感想をいただきました。
また地元の方の中には、あえて“外の人”からの意見やアイデアを聞くことで、新しい気づきやアクションのヒントを見つけてくださった方もいらっしゃったようです。

ロコハンで出たアイデアや発見をきっかけに、plususと須坂ではその後も交流が続いています。アイデアそのものが具体的な形にならなくても、参加者の中にはお世話になった地元の方との交流が続いていたり、須坂のものを買う機会が増えた人も。
何かがあったときに協力しあえる「人と人のつながり」が生まれること、それが続くこと。地元を主役にしたアクションの火種を起こすこと。ロコハンの大きな目的のひとつが、少し形なったという手応えを感じました。

お忙しい中、ロコハン in 長野須坂にご協力いただいた地元の皆様、本当にありがとうございました。
須高ケーブルテレビ株式会社様、新規就農者の皆様、長野GaRonsの皆様、
ゲストハウス「蔵」、峰の原高原ペンション、須坂市